KDDI財団と助成対象者・受賞者の化学反応によりICTの利活用を促進し、より良い社会へ

東京大学大学院工学系研究科 教授
KDDI財団 審査委員長

森川 博之 もりかわ ひろゆき

経歴

1987年、東京大学工学部電子工学科卒。1992年、同大学院博士課程修了。博士(工学)。2006年、東京大学教授。2017年より現職。モノのインターネット/ビッグデータ/DX、センサネットワーク、無線通信システム、情報社会デザインなどの研究に従事。OECDデジタル経済政策委員会(CDEP)副議長や総務省情報通信審議会部会長、Beyond 5G新経営戦略センター長、情報社会デザイン協会代表理事なども務める。著書に「データ・ドリブン・エコノミー(ダイヤモンド社)」「5G 次世代移動通信規格の可能性(岩波新書)」など。

KDDI財団の審査委員長として助成・表彰事業の候補者の評価をしていただいている東京大学の森川教授に、KDDI財団の特徴、候補者の方々への期待をお話しいただきました。

デジタル技術が進展すれば
社会はどんどん変わっていく

――森川教授の研究内容の中で、現在特に力を入れておられること、テーマについてご紹介いただけますでしょうか。

おもしろいことなら何でもやる。それが私の研究室のスタンスです。デジタル、特に無線に立脚した研究が中心ではありますが、内容はバラエティに富んでいます。

現在力を入れているのが無線の信頼性の確保、低遅延の実現に向けた研究です。例えば壁全体をアンテナにしてしまうことで信頼性を確保できないか。そうすれば全ての有線を無線にしてケーブルをなくすこともできるかもしれません。工場の生産ラインは頻繁にレイアウトを変えたり、設備を移動させたりする必要があり、そのたびに配線し直すのに大変な労力がかかっています。全て無線にしてしまえば楽になるし、ロボットも無線で制御できます。建設機械の遠隔制御も面白いかもしれません。現在では現場で機械を操作していますが、無線化が進めば、現場とは別のところにあるオペレーションルームから操作できます。そうなると働き方も変わっていくはずです。ヘルメットを被って作業着を着た人が現場で汗を流していたのが、きれいなオフィスで、おしゃれな服装に身を包んだ人が操作するという未来が来るかもしれません。女性や高齢者でもできる仕事になっているはずです。無線の低信頼性を解決できれば社会は大きく変わります。現場に行かなければいけない仕事はどんどん減っていくでしょう。

その他、ビッグデータの活用にも取り組んでおり、風力発電設備の異常検知や、営業社員の日報を分析して今後の営業活動に生かす研究なども進めています。

枠にとらわれない活動が
KDDI財団の特徴

――KDDI財団の活動に対するご感想をお聞かせください。

研究者や団体への助成や表彰をしている財団は数多くあります。KDDI財団の面白いところが、それらにとどまらず、海外人財育成や途上国教育支援などにも取り組んでいることです。カンボジアでの芸術に関する教育支援活動などは非常に興味深いですね。幅広い分野で社会的に意義のある活動をしていることをもっともっとアピールしてもよいのではないかと思っています。

――森川教授はKDDI財団の助成・表彰事業において審査委員長を務めておられます。候補者を評価する際にどのような点を重視していますか。

研究内容がインパクトを与えるものであること。その点を高く評価したいと思います。この「インパクト」は解釈の幅が広いですが、社会や学術界に影響を与える、大きく貢献する、あるいは新しい知見をもたらす、そういった点を考慮しています。

また、「ICTの普及・発展、グローバル化、ICTを利活用した社会的課題の解決など、社会の持続的発展に貢献する顕著な業績を挙げた者」を表彰する「KDDI Foundation Award」の受賞者は、10年後には関わる業界を率い、日本を支えている人物であってほしい。その願いを込めて評価をしています。

大切なのは社会や顧客に
どのような価値を提供できるか

――応募にあたり、研究者や団体に期待することは何でしょうか。

「KDDI Foundation Award」については、ICTに関する表彰制度ではありますが、より多くの分野から応募してほしいと思っています。

助成については、小さな成果を追うのではなく、もっとぶっ飛んだ提案をしてくださることを期待しています。昔とは違い、今は何本論文を発表したかが問われる時代です。どうしても「小さくまとめて論文にする」ことを迫られるので、やむを得ないのかもしれません。私としては書いた論文の数で研究者を評価するのはもうやめたいと思っています。

研究において大切なのは社会や顧客のニーズに応えるものであることです。その研究により社会にどのような価値を提供できるか、喜んでくれる人がいるか。それを考えながら研究すべきで、そうでないと研究のための研究になってしまいます。基礎研究については明確な顧客がいないことがありますが、学術界を顧客と捉え、全く新しい知見を提供するつもりで取り組んでいただきたいですね。

そして、自分の研究が社会に与える影響を大いに語っていただきたいと思います。以前、大手IT企業で量子コンピュータの研究をしている方と話をしたことがあります。量子コンピュータができれば世の中が変わる。例えば気象予測がより正確にできるようになり、そうなると農業のあり方が一気に変わっていく……。語りだしたら止まりません。このような人が世の中を変えていくのだと感じました。自分の研究がなぜ社会にとって必要か、それに基づいてどのようなことに取り組んでいるのか、熱のこもったストーリーを聞かせていただけたらうれしく思います。

――森川教授のご経験を踏まえつつ、社会や顧客のニーズに基づくことの大切さについてお聞かせください。

以前、私は水田の水量を遠隔監視するセンサーの開発に携わったことがあります。水量が適切かどうか、農家の方々は毎朝1時間かけて歩いて見て回らなければなりません。これは大変な苦労です。しかしそのセンサーを使えば家にいながらにして、ひと目で水量を確認できます。これは間違いなく売れると思いました。価格は10万円。農家の方に紹介すると「高くて買えない」とおっしゃいます。それに毎朝の見回りは長年の習慣になっているのでもはや大した苦ではない、とのこと。ではいくらなら買いますか、と聞いたところ、1万円なら買ってもいいかなと。それではビジネスになりません(笑)。良いものができたという手応えがあったのですが、どうやら私たちは顧客のことを分かっていなかったようです。ニーズに基づいていなければ喜んではいただけません。

私がやられたな、と思ったのが大手EC企業の「ダッシュボタン」です。これはボタンが付いている専用の端末で、押すだけで日用品や食料品を買うことができます。そう聞いただけだと「ネットで注文すれば良いではないか」と思ってしまいますが、わざわざこのようなハードを作った点がその会社のすごいところです。ネットだとサイトを開き、商品を選んでクリックしないといけないので結局買わない。でもボタンを押すだけであれば買うのです。顧客のニーズをとことん深掘りしている姿勢に感じ入りました。

要するに、自己満足するな、ということです。論文を書いて発表したら終わりではありません。社会や顧客に価値を提供できる研究であるかどうかを常に念頭に置いていただきたいですね。

ICT活用でよりよい未来を
KDDI財団はその盛り上げ役に

――KDDI財団の活動を通して、社会にどのような影響を与えられることが理想でしょうか。

ICTが私たちの生活の隅々にまで入り込んでいる時代がすぐにやってきます。ICTを活用してより良い世界を導く。その支援をすることがKDDI財団には求められています。活動を通して日本のICT産業を盛り上げていただきたいですね。

そしてKDDI財団が、受賞者や助成を受けた個人・団体同士が化学反応を起こす触媒となることで、ICTがさらに発展し、より良い社会につながっていくことを期待しています。

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